HEATHERS ヘザース ベロニカの熱い日

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Column#01映画界における未解決問題――すべての過去作をstranger thingsに

「過去の映画を改めて見直そう」と言うのは簡単だけれど、わざわざ世に出すことを真剣に考えてみると実行は難しい。その難しさとは、権利的な問題のことではなく、そこに何を見出せばいいのか、そしてその見出した何かしらをどうやってどこに届けるべきなのか、についての難しさだ。新作映画ならば簡単なのかというと、もちろんそうではないのだけれど、過去の映画のほうが、「なぜそれを?」「いまどんな形で?」ということをより問われる気がしてはこないか。この問いは恐ろしい。正直、あんまりこの手の問いをぶつけてこないで欲しい。しかし、たとえ問いが飛んで来なくとも、やはり頭の中には常に存在している。これは、熱意ある映画関係者たちが日夜頭を悩ませながら答えを探し求めている映画界の未解決問題の一つなのだ。

「とても出来は良いけれど、今では気軽に見られないから」。まったく正しく、安牌だ。しかも嬉しい。気軽に見られるのはいいことだからだ。Amazonで廃盤のために跳ね上がった販売価格を前にし、絶望した経験は誰しもあるだろう。ただし間違いではないが、これが答えではあまりにも漠然としすぎではないだろうか。犯人は10代~20代、もしくは30代~40代、または50代以上の人物、という推理くらいとんでもない広さだ。「往年の映画ファンに懐かしんで、楽しんでもらう」。なるほど、実にシンプルな回答である。否定しようがなく(かつする気もない)、おそらく現実的には概ねその通りなのかと思う。ただしこれが答えでは少しばかり狭すぎる。あくまでとりあえずの正解といったところだろう。ひとまず取っておくだけ取っておいた領収書の束ごとく、来たるべきソフト再販業界の期末に向けて、事態はゆっくりと、しかし着実に深刻さを増して進んでいく……。いつか清算しなければならなくなるのだ(実はもうとうの昔に期限切れなのかもしれないが)。

この再販業界のゆるやかな死を回避するためにも、再販されるすべての映画は「新しい過去作」という矛盾を孕んだものとして蘇らせなければならない。当時のそれよりもより一層奇妙なこと=stranger thingsとして。そこで白羽の矢が立ったのが、『ヘザース ベロニカの熱い日』というわけだ(おそらく)。
ドラマ『ストレンジャー・シングス』シリーズのジョイス・バイヤーを演じているウィノナ・ライダーの出世作というだけではなく、『ヘザース』にはいたるところにより奇妙な世界へとつながるゲートが開かれている。例えばあの有名なオープニングだ。整然と手入れされた花壇の花を一切の躊躇もなく踏み潰して去っていくティーンたち。郊外というものに対する極めてクリティカルなティーンたちをその足取りは、本作以降の郊外を舞台にした映画にどれほどの影響を与えただろうか。彼女たちの華麗で残酷なあの一歩を、より奇妙な世界へと踏み入れた新たなる一歩として捉えなければつまらない。サンダンス等の映画祭で賛否両論を巻き起こしたSNS時代のセイラムの魔女狩り学園映画『Assassination Nation』の郊外の街並みをトラッキングで映し出す冒頭の緩慢な厭らしさと並べて見よう。そのためには、『ヘザース』再販と合わせて『Assassination Nation』公開が必須の条件だ。

場面写真

あるいは、学園ものというジャンルに殺人的な社会風刺を取り入れた『ヘザース』のシニカルな態度が、現代ではもはや1ミリたりとも寓話にならなず、まったく笑えないことについてどう考えたらよいのだろうか。そのとき私たちは、はたと本作の監督マイケル・レーマンの重要性に気づき、彼のもう一つのブラックコメディの怪作『アップルゲイツ』も希求する。アマゾンの熱帯雨林が破壊され存亡の危機を感じたコロラダ虫集団が、環境破壊を阻止するべくアメリカの白人ファミリーに化けて、郊外に潜入するという、凄まじい映画『アップルゲイツ』は、今こそ「新しい過去作」(当時でも相当奇妙な映画ではあったらしいが)として見られるはずだ。そしていそいそとAmazonで検索したのち、『アップルゲイツ』VHS、9,800円という価格の目にして、この世のいく末を憂うだろう。

『ヘザース』という名のゲート(パッケージ)を開けたなら、好奇心のままにより奇妙な世界へと進んでいこう。決して本作一本で終わらせてはならない。1本で解決できるほど、映画界の未解決問題は優しくないのだ。シリーズ2、3、4……と続けていくことこそが、このはてしない問題の唯一の答えである。そうして、私たちは、見て、語って、作戦会議をして、書いて、作って、上映して、また見て、語る。これ以外に道はない。その道のりの過程で、過去の映画はみずみずしい新作として蘇る。それでは、シリーズ2はぜひ『アップルゲイツ』の再販を!

プロフィール

降矢 聡

グッチーズ・フリースクール主宰。雑誌『ムービーマヨネーズ』企画・編集、共著に『映画を撮った35の言葉たち』、『映画監督、北野武。』(ともにフィルムアート社)、『映画空間400選』(INAX出版)がある。10/13(日)池袋の新文芸坐にて【この才能を見逃すな!新世代ルーキーオールナイト】を開催。